Tractable
25.11.2022
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Tractable AIのスピードと標準化で、保険業界の質的価値を最大化する 〜全ステークホルダーへの貢献を目指す、損保ジャパンのDX〜 - 損害保険ジャパン株式会社 執行役員 保険金サービス企画部長 大倉岳
2021年7月、保険金支払いの業務におけるデジタルトランスフォーメーション(以下「DX」)を実現するために、Tractable(以下「トラクタブル」)と業務提携した損害保険ジャパン株式会社(以下「損保ジャパン」)。2022年後半から2023年にかけて、大幅な業務効率化を実現すべく、トラクタブルのAI技術を活用したソリューションの導入を全社で推進しています。
プロジェクトの起点となったのが、2021年に導入された「AI Review」。同技術は、自動車保険事故時の損害査定プロセスを効率化し、保険金支払いを迅速化する、車両事故分析ソフトウェアツールです。損保ジャパンでは、画像調査事案全件をAI Reviewで1次チェック。2025年には年間100万件の損害調査事案のうち4割は人の手を介さず自動化する仕組みの構築を目指しています。
損保ジャパンはなぜ、数多くのAI企業のなかから戦略パートナーとしてトラクタブルを選んだのか。保険サービスを提供する企業として描くビジョンにおいて、AI Reviewの導入を皮切りとして、トラクタブルが担う役割について、損保ジャパン執行役員・保険金サービス企画部長の大倉岳氏に伺いました。
(聞き手:カスタマーサクセス部門 日本兼APACヘッド 山村明)
2023年までに画像調査事案全件をAI Reviewで1次チェック
――貴社は、中期経営計画(2021年度〜2023年度)のDX施策として、事故が起きた際の、自動車の損失額についてAIが画像から見積金額を自動算出するサービスの構築を進めてこられました。その戦略パートナーとして、トラクタブルを選ばれた決め手を教えてください。
大倉岳氏(以下、敬称略):一言でいえば、貴社の「AIの技術力の高さ」に尽きます。欧米をはじめとする世界各国の大手保険会社、国内でも複数の企業と協業されているという「信頼性の高さ」も決め手となりました。
目下、貴社のAI Reviewを活用して、自動車保険の損害調査の分野に注力しています。従来この分野では、アジャスター(損害調査業務者)が一件一件、人が目を通して損害査定を行います。お客様に適正な保険金をお支払いするためには重要な作業なのですが、複雑な要素が絡まない軽微な事案も含めて、ここに膨大なリソースを割いてきたのが実情でした。
しかし、AIを活用することによって、損害調査プロセスの効率化が可能になると考え、導入に至りました。
――2021年の導入以来、AI Reviewの活用実績はいかがでしょうか?
大倉:画像調査事案全件をAI Reviewで1次チェック(スクリーニング)しています。
そこで問題がなければ、アジャスターが交渉することなく、そのまま修理工場と協定する仕組みを構築。この自動化によって、2022年後半から2023年にかけて、大幅な業務効率化を実現します。
そして、貴社の最先端AI技術で圧倒的な業務効率化を実現したその先には、“時間の創造”があります。1日でも早く安心してご乗車いただける車両をお客様にお戻しするのはもちろん、AI活用で創造された人的リソースを、人ならではの丁寧さや専門性を要する難事案に振り分けることができれば、私どもの事故対応品質がさらに向上すると考えています。
「画像アップロード率」や「AI活用協定率」がAI活用を測る指標に
――実際に運用されてみての感触はいかがでしょうか?
大倉:現在3拠点で半年間運用していますが、徹底的に活用することで、すでに高い成果をあげています。一方で、地域特性によってAIの使用率に違いが生じることも見えてきました。2022年11月から全国に展開するにあたって、地域における外的要因の違いを可視化しながら、運用をアレンジする必要性があるのではないかと感じています。
AIを含め新技術の導入においては、単に仕事のやり方を変えるだけでなく、技術を実際に使う担い手の意識も変えていかなければなりません。「そもそも何のために新技術を使うのか?」を全員で共有することが不可欠ですが、やはり現場でしか分からないことも多いのも確か。そのため、私たち本社の人間が、現場の声をきちんと聞いて、”現場に即した””現場が主役”の仕組み作りをしていく重要性を強く意識しています。
――AI Reviewが活用されているかの指標は、どのように設定されているのでしょうか。
大倉:「システムを導入すればゴール」というわけではありません。ですから、拠点別の画像をアップロードした割合や、AI Review上で協定まで完了する割合などの具体的な数値が重要です。当部では基本的に、それらの割合が高くなればなるほど活用ができていると捉え、注視しています。
AI判断で自動化した結果は本社が責任を持つ
――年間100万件の損害調査事案のうち4割をAI判断で自動化する、というお話がありました。社会に保険サービスを提供する企業として、その結果に対する妥当性も問われることになると思います。この点に関してはどのように認識されているのでしょうか。
大倉:従来の人を介したやり方でもミスは起こり得ます。また、工場によって修理の認定の範囲に幅があるという側面もあります。AIを活用することで、そうした属人的な要因による乖離をできるだけ縮めていき、公平性を担保していきたい。そのためにも、やはり本社にはAI Reviewの使用率やAI Reviewのみの協定率などを常にチェックし、フィードバックを都度行いながら、AI判断の精度を改良していく、という社会的な責任があると考えます。
――つまり、AI活用で蓄積された実際のデータを定期的に見直し、その結果の是非については本社で引き受けるということでしょうか。
そうです。同時に私たちは、自動車保険の損害調査の現場である整備工場にも頻繁に情報を取りに行きます。貴社にもすでに足を運んでいただいていますが、今後もぜひご同行いただきたいという思いがあります。
損害保険業界の“当たり前”が、果たして本当に“当たり前”なのか。現場で生の実態を見ていただいたうえで、AI技術の観点からのご提案をいただくことで、業界の固定観念を捨てた新たな業務プロセスを構築していきたいのです。
アジャスターの役割が「Win-winの関係性構築」にシフト
――AI Reviewをご利用いただき、「AIの得意分野」についてはどのような手応えを得られているのでしょうか。
AIの強みは、人材育成の結果による個々の経験値に代わる「標準化とスピード」ですね。最初にお話したようにそれは、お客様、事案担当者、アジャスター、さらには修理工場といったすべてのステークホルダーにメリットがあると実感しています。
例えば、修理金額を決める際、人を介して査定をすると、保険会社と工場との間で「果たしてその見積もりは高いのか、安いのか」といった、“点と点”でのやり取りにどうしても時間が取られます。
それがAI Reviewを利用することで協定にいたるまでの交渉時間が短縮できれば、修理に取りかかるまでのスピードが早くなるため、工場側としても回転率が上がり利益につながります。
そして、アジャスターはこれまで1件1件にかけていた交渉時間を、今後は工場との関係性構築の時間にあてることができます。アジャスターの役割は、工場とのWin-Winの関係性を築くことにシフトするのではないかと感じています。
――貴社のビジョンとして、今後もAI導入路線を推進されるのでしょうか。
大倉:さまざまなAIの技術を順次導入していく予定です。今回のトラクタブルAIのような技術革新のタイミングは、業界内外のコミュニケーションを活性化するチャンスです。これを機に、すべてのステークホルダーとの関係性の深化につなげたいと思います。
AIによる圧倒的な業務効率化と、それによる圧倒的な人的価値の提供。両者が組み合わさることで、「損保ジャパンの事故対応は素晴らしい」と関係者に感じていただけるような価値の向上が本質的に目指すところ。その実現のために、貴社のAI技術が欠かせないと確信しています。